事務所だより(2026年1月)

1.労働基準法「大改正」の動向

令和7年1月、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が報告書を公表しました。

同研究会は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」に基づき、労働基準法等の見直しを検討することを目的として設置されたものであり、

その報告内容は約40年ぶりの大規模改正として労務管理に大きな影響を与えると見込まれています。

現時点では法案として国会に提出されたものではなく、確定的な改正ではありませんが、今後の制度設計に直結する重要な論点です。

報告書の柱は、第一に労働時間規制の強化があり、連続勤務は最大13日、勤務間インターバル制度を義務化して原則11時間以上の休息を確保する方向が示されています。

また、現在、特例で認められている週44時間制の廃止もあります。

第二に、副業・兼業者の労働時間通算ルールの見直しです。

従来は複数事業場での労働時間を通算する仕組みでしたが、割増賃金算定や安全配慮義務に課題がありました。

報告書では事業主間の責任分担を整理し、労働者の健康確保と企業の負担軽減を両立させる新ルールが検討されています。

副業・兼業の拡大を背景に、就業規則や勤怠管理の見直しが不可欠となるでしょう。

第三は「つながらない権利」といえますが、勤務時間外に業務連絡へ応じる義務はないとする考え方をガイドライン化し、生活時間を守る仕組みを整える方向が示されています。

これは、テレワークやモバイル端末の普及で勤務時間外の連絡が常態化している現状を是正する狙いです。

これらの改正は2026年4月に施行される見方もありますが、現時点では検討段階に過ぎません。

とはいえ、労働基準法は強行法規として適用されるため、企業としては実務対応にその情報収集と準備を進めることが不可欠です。

2.安全配慮義務について

近年、全国各地で熊の出没が相次いでおり、2025年の漢字は「米」ではなく「熊」となりました。

人身被害や業務への影響が社会問題となり、2025年の下半期でかなりのインパクトを残したのではないでしょうか。

山間部だけでなく、市街地周辺や住宅地近くでも目撃情報が増えており、事業活動においても無視できないリスクとなっています。

このような状況の中、改めて確認しておきたいのが、事業主に課される「安全配慮義務」です。

労働契約法第5条では 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

と定められており、このことは使用者が当然に安全配慮義務を負うことを規定したものです。

安全配慮義務とは、労働者の生命・身体・健康を危険から守るよう配慮すべき義務であり、業務中に想定される危険について、事前に予測し、適切な対策を講じることが求められます。

とくに熊の出没が想定される地域では事業主が危険性を認識し、注意喚起や行動ルールを整備することが重要かもしれません。

具体的には、熊出没情報の共有、危険時間帯や危険区域の把握、単独行動を避ける配慮、緊急時の連絡体制の確立などが考えられます。

また、自治体の注意喚起や警報が発令されている場合には、業務内容の見直しや一時的な中止を判断することも、安全配慮義務の一環といえるでしょう。

最近ではコンビニ各社も熊対策のガイドラインを策定されているようです。

安全配慮義務を怠った場合、労災認定や損害賠償責任に発展する可能性もあることで「問題が起きてから対応する」のではなく、

「問題が起きないように備える」ことが安全配慮義務の本質です。

この機会に、自社の職場環境や働き方、労働者の現場の声を聞いて安心して働ける職場づくりに取り組んでいきましょう。